Webコラム

2006年夏・パレスチナ取材日記 3

ヒズボラへのガザ住民の感情

7月23日(日)

 ガザ市の人権擁護NGO「パレスチナ人権センター」の代表ラジ・スラーニを訪ねた。このNGOは英語版の週刊報告書メールで、イスラエル軍の攻撃による住民の犠牲、被害の実態を世界に発信続けている。1年ぶりの再会だったが、これまで見たこともないほど疲労困憊した表情が気になった。6月25日以来、急増する住民の犠牲者が増え続ける現状に、ラジは「もううんざりだ」と心情を吐露した。
 ラジは「自分にとってこれまでで最悪の日」というある事件について語った。
 6月には海岸にピクニックに来ていた家族がイスラエル軍の海からの砲撃で少女1人を残し7人の家族が殺害された。その後もイスラエル軍の砲爆撃によって、ガザ住民の犠牲者は続いた。そして7月12日朝、イスラエル軍はガザ市内のある民家を爆撃、両親と7人の子どもが殺害された。駆けつけた現場でラジは、頭部と肢体がばらばらで肉片となり、もう人間の姿をしていない子どもたちの遺体が瓦礫の中から次々と回収される様子を目の当たりにした。帰宅したラジはこれまでにない激しい怒り、絶望感、無力感、倦怠感に襲われ、身動きできなかった。
 打ちひしがれていたラジの元に、イスラエル北部の国境でイスラエル軍がヒズボラに攻撃され、4人の兵士が殺害され、2人の兵士が捕虜となったというニュースが飛び込んできたのは、ちょうどその日の夜だった。ラジは、光がさしこめ無力感から解き放たれるような気持ちになったという。これが、ヒズボラの攻撃に対する、イスラエルの封鎖や攻撃に苦しめられ続ける“占領”下のガザ住民の心情だった。大半のガザ住民は、このヒズボラの攻撃に歓喜し、連日のミサイル攻撃でハイファ以北のイスラエル人市民を震え上がらせている現状に溜飲を下げているという。「ガザ住民はヒズボラを率いるハッサン・ナスララの靴に接吻をすることもいとわないだろう」とラジは表現した。前日、ガザの名士たちが集まる会合にラジが参加したときのことだ。参加者の1人がナスララの行動を批判した。すると他の参加者の大半が一斉にナスララ批判者を激しく糾弾した。今のガザ住民の心情を象徴するような光景だったとラジは語った。

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