Webコラム

2006年夏・パレスチナ取材日記 7

病院の負傷者たち

7月27日(木)

 昨日から再び急増したイスラエル軍による犠牲者や負傷者は今日も続出している。午後、ガザ市内のシェファ病院へ向かった。病院の入口には人だかりができている。路面に、直前に運ばれてきた負傷者の血糊が残っている。救急車が到着すると、群衆がその一斉に後方ドア周辺に移動する。中から負傷した半裸の老人が台に乗せられたまま引き出され、救急隊員によって大急ぎで病院の中へ運び入れられる。その直後に女性が泣きながら病院に走りこんでいく。家族だろう。カラシニコフ銃を持った警官が病院の入口に入ろうとする群集を大声で追い返す。怒号が飛び交う。集まった男たちも、病院を警備する警官たちも殺気だっている。緊急治療室に入る。人だかりのできたベッドに近づくと、警官のユニフォーム姿の脚が見えた。右太腿が十数センチにわたって深く裂け、左脚の膝下のすねが砕けている。医者が酸素マスクを負傷した男の口にあてている。意識を失っているようだ。腹部を撃たれた青年もいる。負傷者たちの家族や友人たちが治療室に群がる。追い返そうとする警官と激しい口論となり、騒然となる。この修羅場のような光景が昨日からずっと続いているのだ。
 階上の病室へ向かった。片脚を失った青年、顔中に破片の傷を負った老人・・・、最近のイスラエル軍侵攻で負傷した患者たちばかりだ。両目を包帯で覆われた8歳の少年がいた。脚も包帯で覆われ、腹部にも破片の傷が点々と広がっている。その負傷箇所を撮影するために、裸の身体を覆う布を父親がはがすと、少年は小さな声でつぶやいた。「父さん、寒い・・・・」。手が小刻みに震えている。辛かったが、震える少年の負傷した脚、腹部、そして視力を失っているかもしれない両目をなめるように撮影した。「これを伝えずにおくものか!」と心の中でつぶやきながら。

 これが現在のガザの日常なのだ。しかし日本では国内ニュースやレバノン報道の影に隠れてほとんど報じられることもないだろう。たとえ伝えられても、せいぜい「ガザで22人死亡」という小さなベダ記事に過ぎないだろう。世界にその事実が伝えられることもなく、ここガザでは、1人ひとりの人間の未来が、巨大な国家の武力によって理不尽に、そして無造作に踏みにじられ破壊され続けている。

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