Webコラム

2006年夏・パレスチナ取材日記 13

大学卒業生たちの声

8月2日(水)

 大学を卒業しても仕事もなく、将来の希望も持てない若者たちは、今のガザの状況をどう見ているのか。何にその絶望感、怒りを向けているのか。卒業式を取材したイスラム大学の英文科卒業生たち5人に集まってもらった。
 彼らにも夢はあった。1人は「外交官となって、パレスチナ問題やレバノンの問題を解決に貢献したい」という。しかしそのような仕事を得ることは、今はほとんど不可能だ。「何もできない。自分が障害を持った人間になったような心境です。とても惨めです。仕事を持てなければ人生でない」とこの卒業生は現在の心情を吐露した。
 「文学とりわけパレスチナ文学を教える仕事をしたい」と語った卒業生は、「仕事がなくても、パレスチナ人にあることを誇りに思う」と言った。「私の問題は他の人たちの問題に比べたら、何でもないことです。他の人は10年も失業したままの人がいる。他の人たちの不幸を想うと、自分を誇るべきだと思うんです」
 集まった5人の学生の全員が、機会があれば海外に留学したいという。「ガザに帰っても仕事がないのだから、そのままその留学先の国に残りたいと思わないか」と訊くと、全員が「パレスチナに帰ってくる」と答えた。「私はパレスチナ人の中、家族の中で生きていきたい。もしここを逃げたら、私は敗北者です」「パレスチナ人の人々とそして家族と共に苦しみたい。たとえ私が外国に出られても、弟たちは逃げられない。ここは私の土地です」という答えが返ってきた。
 2人の卒業生が、かつて奨学金を得て海外へ入学できるはずだったが、封鎖によってガザを出ることができなかった体験をもつ。そういうふうに夢を絶たれていくことへの怒りの矛先はどこへ向かうのか。1人が答えた。「イスラエルに激しい怒りを抱きます。イスラエルはパレスチナ人の教育を受けた者を破壊しようとしているんです。次にアメリカ政府を非難したい。アメリカは全面的にイスラエルを支持し、パレスチナ人の利益を反することをやっているから。そして何もしないアラブ諸国の指導者たちです」
 他の青年が言った。「私たちの政府にも責任があります。青年たちの問題をこれまで深刻に考えてこなかったからです」
 「でもイスラエルの“占領”が私たちの夢を実現できない最大の障害です」ともう1人の青年が付け加えた。
 前自治政府の腐敗を激しく非難する青年もいた。しかし現在の悪化したパレスチナの情勢が現在のハマス政権に責任があると答える者は1人もいなかった。「今の政権は予算を断ち切られ、まったくチャンスを与えられないのですから」というのが青年たちの共通した意見だ。
 「国際社会の主張はとても矛盾しています」とある青年が言う。「アメリカや世界は『中東に民主主義を』を叫んでいます。なのに、パレスチナ人が民主的に政府を選ぶと、それを罰する。どうしてですか」。
 青年たちは、世界の“偽善”“矛盾”を鋭く突く。「アメリカやイスラエルはハマスがテロリストといいます。ハマス政権を倒したいからといって、どうして一般民衆を“集団懲罰”するのですか」

 6月末、ハマスら武装勢力がケロム・シャロムのイスラエル軍陣地を攻撃し、1人の兵士を捕虜にしたことについても非難する者はなかった。「私はカッサム・ロケットで攻撃することや、自爆攻撃でイスラエルの女性や子どもを殺すことには反対です。ただケロム・シャロムの攻撃は全面的に支持します。あれは兵士による敵の兵士に対する攻撃なのですだから」
 「私はイスラエル兵を捕虜にしたことを誇りに思います。その兵士はパレスチナの“刑務所”の中にいます。一方、何千というパレスチナ人の政治犯がイスラエルに捕らえられています。なのに、イスラエルやアメリカ、世界はその1人の兵士を捕囚したことを非難する。世界はどうして、何千という政治犯が捕らえらたままであること、パレスチナ人にも権利があることを理解しないのか」と他の青年。
 また「パレスチナ人のテロ」を糾弾する声に、「“テロ”とは何ですか。今、イスラエルがレバノンでやっていることは“テロ”ではないのですか」「もし見知らぬ者が自分の家に押し入ってきて攻撃してきたら、あなたは『こんにちは』というだろうか。復讐しませんか」
 「ロケット砲や自爆攻撃は、パレスチナ人にとって自己防衛の唯一の手段なのです。私たちは自分自身の身体以外に“武器”がないのです。戦車やF16などの武器もありません。私たちはあらゆる手段で自分たちの土地を守る権利があります」
 「家や母親や子ども、兄弟を失った者から、あなたたちは何を期待しますか。希望を失った者に何を期待できますか。イスラエルへ行って自爆もするでしょう」「欧米の映画では、家族を殺された者が復讐をすることは賛美されて描かれる。しかしパレスチナ人が同様のことをやるとテロリストというのです」
 1人の青年が「3つの質問があります」と言った。「かつてベトナム人は独立と自由のために闘いました。彼らは『テロリスト』ですか。アメリカ人に問いたい。あなたたちはかつて独立のためにイギリスと戦いました。闘ったアメリカ人たちは『テロリストですか』。さらに英国人やフランス人に訊きたい。かつてナチスドイツの侵攻と占領に対して闘った人たちは『テロリスト』ですか」
 「アメリカはイスラエルの占領に立ち向かう者を『テロリスト』といいます。しかしパレスチナ人にとって、イスラエルがパレスチナで女性や子どもたちなど無実の人々を殺害されていることがテロなのです」
 「アメリカこそ世界の最大のテロリストです。イスラエルがパレスチナやレバノンで女性や子どもたちを殺すことを知りながらイスラエルに武器を与え支持しているのです。アメリカやイスラエルこそテロリストであり、我われパレスチナ人ではありません」

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