Webコラム

ガザからの報告(2014年夏)
(14)燃料費の高騰と社会の“暴力化

2014年8月19日(火)


(写真:日本の1.3倍もするガザのガソリン)

 現在社会において電気がなければ暮らせない。しかしガザの発電所は爆破され、イスラエルからの電力も制限され、ガザ住民は現在でも1日数時間しか電気を得られない。そこで必要になるのが発電機だ。しかし問題はその燃料である。家庭用の小型発電機はガソリン、病院や高層ビルなど大型発電機ではディーゼルを使用するが、昨年6月、エジプト政権によってトンネルが破壊され、エジプト側から安価な燃料が入ってこなくなってから、トンネル以前と同じようにイスラエルから輸入しなければならなくなった。それによって値段は高騰し、量も制限されるようになった。
 それに拍車をかけたのが、今回の「戦争」だ。「セキュリティー」の理由などで燃料をイスラエル側から受け取る検問所はしばしば閉鎖され、たとえ開いてもパレスチナ側の燃料会社が望むだけの量が入ってこないのだ。

 燃料の値段の変化を、ガソリンスタンド経営者のハーレド・ファリス(40)の説明を元にもう少し詳しく見てみる。
 ガザがまだファタハ主導のパレスチナ自治政府(PA)の統治下にあった2004年ごろはイスラエル側から入ってくる燃料は約2シェケル/1リットルだった。しかしその値段はだんだん上がり2007年までには約6シェケル/1リットルにまで高騰した。
そして2007年7月にハマスがガザ実効支配した後、イスラエルの封鎖が強化され、イスラエル側から燃料が入ってこなくなった。そのため多くのガソリンスタンドは営業を停止せざるをえなくなった。
 その封鎖の解決策として生み出されたのが、ガザとエジプトの境界沿いの地下トンネルだった。当初はトンネルを通して燃料をガザ側に送る設備も十分ではなかったため、品質も悪く値段も高かったが、2008年9月ごろには値段も落ち着き、1.5xA群シェケル/1リットルで安定して供給されるようになった。
 しかし2013年ムスリム同砲団系のムルシ政権をクーデターで倒し実権を握ったシーシ将軍(現大統領)は、同砲団に近いハマス政権を敵視し、エジプト・ガザ間の全トンネルを破壊した。それはイスラエルの封鎖に苦しむガザ住民が2008年以降、依存してきたガザ経済の“命綱”を失うことを意味した。燃料もエジプト側から入ってこなくなり、2007年以前と同じように、イスラエル側から輸入せざるをえなくなった。これによって燃料の値段は急騰し、「戦争」が始まる直前の2014年7月にはガソリンは7.42シェケル/1リットル、ディーゼルは6.11シェケル/1リットルになっていた。しかもその条件もより厳しくなっている。以前は燃料を受け取ってから40日以内に支払えばよかったが、2013年9月から、イスラエル側はパレスチナの燃料会社に、燃料を受け取る前に料金を前払いするように要求してきたのだ。さらに今回の「戦争」によって、「セキュリティー」の理由などで燃料をイスラエル側から受け取る検問所がしばしば閉鎖されたり、たとえ開いてもパレスチナ側の燃料会社が望むだけの量が入ってこないなど、イスラエル側の制限がいっそう厳しくなった。


(写真:ガソリンスタンド経営者のハーレド・ファリス)

 ハーレド・ファリスは、再びイスラエル側から燃料を輸入しなければならなくなってからのガザ社会の変化をこう語る。
 「イスラエルから燃料を輸入することになってから、ガザ住民の生活はそれによって悪い影響を受けています。とりわけ発電機の使用で住民は苦しんでいます。トンネル時代のように安い値段で燃料を手に入れることができないため、住民の生活の質は悪化し、それが住民の中にフラストレーションや軋轢、暴力を引き起こしています。
 失業問題も燃料の使用にも悪い影響を与えています。住民の中にはまったく収入のない人がたくさんいます。働けても、収入は少ない。ガザにおいて毎月の収入が75ドル以下の人も少なくありません。そんな人たちにとって、毎日燃料を買うことはとても難しい状況なのです」

 7シェケル/1リットルは日本円にして約210円。日本でも160円前後のはずだから、月平均収入が75ドル(約7700円)といわれるガザでは、とてつもなく高い値段だ。なぜイスラエルからではなく、もっと値段の安い周辺のアラブ諸国から購入できないのか。
 「それは1993年のオスロ合意と同時に経済問題について取り決めをして、パリ合意によって、パレスチナ人はイスラエル側から燃料を得なければならないことになっているからです。イスラエル側の主張は、『ヨルダン川西岸はイスラエルと隣接しているので、もし自治政府が他のアラブ諸国から安い燃料を買うと、イスラエルの燃料費に影響を及ぼすことになる。つまりイスラエル市民が燃料を、値段の安いパレスチナ自治区から買うようになってしまう』というのです。イスラエルは利己的で、パレスチナ自治政府にイスラエルから燃料を買うように強制したのです。もちろん燃料や調理用ガスは、エジプトやアルジェリアなど周辺アラブ諸国から買うほうがはるかに安い。だから私たちはそれらの国々から買うためのライセンスを得るために努力をしてきました。しかしイスラエル側からの制限でそれができないのです」

 ファリスはこのようなガザの劣悪な経済状況が、社会に危険な悪影響を及ぼすだろうと指摘した。
 「もしこの状況が続けば、(その住民の絶望感と怒りは)は爆発するでしょう。その爆発は2つの方向へ向かいます。1つは内側への爆発です。ガザ内の社会で、住民の間に心理的な病理を生み出し、住民同士の軋轢や衝突、さらに犯罪が急増するでしょう。
 もう1つは外への爆発です。それはイスラエルへの暴力、その暴力の支持というかたちで表出します。イスラエル・パレスチナの為政者たちはこの兆候をきちんと理解すべきです。住民にこのような圧力を加え続ければ、住民はさらに暴力的になっていきます。ガザ住民に自由といい経済状態を与え、住民が人間らしいきちんとした生活ができるために努力せず、このまま圧力をかけ続ければ、最悪の結果を招きかねません」


(写真:今回の攻撃でイスラエル軍が破壊したガザ地区とエジプトを結ぶトンネルのひとつ。エジプト当局もトンネルのエジプト側を昨年破壊した)

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