Webコラム

ガザからの報告(2014年夏)
(17)休業状態の建築資材会社

2014年8月22日(金)


(写真:休業状態の建築資材会社「ダラシュ商店」)

 2011年12月に、ガザ市内の建築資材会社「ダラシュ商店」を訪ねたとき、倉庫にはセメントが山積みされていた。袋に記されている生産地を見ると、エジプトやトルコだった。当時からイスラエル側からガザ地区への建築資材の搬入は、国連関係以外は厳しく制限されていて、セメントなどはラファの地下トンネルを通して輸入するしかなかった。
 当時、店主のナフェーズ・アブ・クメーシュ(当時49/現在52)は私にこう語った。
 「エジプト側からセメントを得ることはできます。しかし機械やブロックなど建設に関わる物資がイスラエルの封鎖のために搬入できません。建設資材の製造に対するイスラエルの封鎖政策はまだ続いているんです」
 「トンネルができる前は、セメントも砂利も手に入らなかったんです。だから瓦礫を砕いて、再利用していました。トンネルから物資を搬入することは非合法です。ビジネスをやる人間としても地下トンネルの取引は適切ではありません。封鎖が終結するとは、商人が自由に合法的に物資を搬入できるということです。またトンネルを通しての交易は苦労が絶えず、水漏れなど多くの問題が出てきます。イスラエルの封鎖は終わってはいません」


(写真:店主ナフェーズ・アブ・クメーシュ)

 あれから3年。ダラシュ商店を再訪すると、倉庫の中にはセメント袋の山が消えていた。
 「エジプトの政権が変わってから、ガザとエジプトの地下トンネルを完全に破壊してしまいました。だからトンネルを通して建築資材は入ってこず、一方、イスラエルの検問所からの搬入を禁止されたままです。だから建築資材はまったく入ってきません。1年前から完全に仕事がストップしてしまいました」
 3年ぶりに再会したナフェーズは、私にそう訴えた。
 「私は事務所へ来て、ここに座り、ただコーヒーやお茶を飲んで一日を過ごします。今はまったく収入がないんです。従業員や施設の維持もままならず、危機的な状況です。従業員たちには養わなければならない家族がいるんです。私だけではない。ガザの建築資材関係の私企業は完全に崩壊しました」

 なぜイスラエルは建築資材のガザへの搬入を制限するのかと訊くと、ナフェーズは「イスラエルは、ガザの武装勢力がその建築資材を使ってイスラエルへ通じる地下トンネルを建設するからと主張しています」と答えた。
 「今回の『戦争』は、これまでの『戦争』とはまったく違います。大量破壊をもたらしました。あらゆる工業施設、ガザの経済基盤が破壊されました。今はガザの工業はまったく機能していません。どの工場も稼動していなんです」

 同席した「パレスチナ建設組合」の理事の1人、バッサム・アタッラ(40)が訴えた。
 「イスラエルにとって、パレスチナの下水設備や発電所を攻撃することに何の利益があるんですか。井戸や道路を破壊することにどんな利益があるというのですか。下水設備や発電所、井戸などが“武装勢力”だというんですか。そこからロケット弾が発射されたとでもいうんですか。イスラエルは私たちの生活を破壊しようとしているんです。私たちはどうしてこんなひどい環境の中で生きていけるだろうか。どんな国でも水や電気など生活必需品は手に入るはずです。しかし我われにはないんです。私たちは、人間としての尊厳を保てるだけのきちんとした生活ができないんです」


(写真:「パレスチナ建設組合」の理事バッサム・アタッラ)

 私は現状への住民の怒りはどこへ向かうのかとバッサムに訊いた。
 「ガザ住民の怒りの矛先は、イスラエルに向かいます。ハマスではありません。イスラエルは差別的な政策を続けています。自分たちは快適な生活を望み、我われパレスチナ人には人間らしい生活をすることを認めないのです。私たちも人間だし、イスラエル人と同じように人間らしい生活をする権利を求めているんです。イスラエル人はガザの住民がハマスなど武装勢力を憎むことを望んでいます。しかしガザ住民は武装勢力が自分たちの権利を取り戻そうとしていることをよく知っています」
 「我われは占領され、封鎖されているんです。そんな我われから何を望むというのですか。我われは食料や建設資材がほしい。7年間も封鎖のために我われには十分それが手に入らなかった。そんな中で、それを取引して生活してきた商人たちはどうやって生活できますか。従業員たちも養うべき家族がいるんですよ。貧困がガザ地区全体に広がっていて、60xA祁0%の住民は貧困状態にあります。そういう状況に抵抗しようとすると、世界は我われパレスチナ人を責める。もし猫が隅に追い込まれたら、人間だって引っかくように、私たちも追い込まれたら、抵抗します」

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