Webコラム

ガザからの報告(2014年夏)
(21)ガザ住民の「戦争」観・ハマス観(3)
歩道でテント暮らしをする避難民家族

2014年8月30日(土)


(写真:路上テントで暮らすガッタス一家)

 この現地報告の2回目に、シェファ病院の敷地内でテント暮らしをする避難民について報告した。800人近い避難民たちは病院内のシェファ公園だけでは入りきれず、病院内の歩道に敷布などでテントを作って生活する人たちもいた((2)病院の中で野宿する避難民)。

 15歳の長男を頭に2歳の末っ子まで6人の子を持つジアード・ガッタス(43)一家も、病院内の歩道に毛布と敷布で囲ったテントで、もう50日近く暮らしていた。

 イスラエル軍の攻撃が始まって間もない7月11日、シャジャイーヤ地区の家の周囲で砲撃が激しくなり、近くのモスクも破壊された。「『ここに武装勢力がいる』とイスラエル軍は主張しましたが、近所に武装勢力などいないことは私はよくわかっていました」とジアードは言う。

 子供たちは怖がり、泣き叫んだ。家族は父親のジアードに「ここから逃げよう」と嘆願した。その時はまだ家は破壊されていなかったが、子供たちのことを考えると、避難せざるをえなかった。

 UNRWA学校に避難しようしたが、どこも避難民で一杯で、ここで路上テント暮らしをするしかなった。

 ここは、UNRWA学校の避難所と違い、シャワーもトイレもなく、生活物資を支援してくれる組織もない。だから病院のトイレを使い、そこで身体を洗う。飲み水は病院が提供してくれるが、800人近い避難民には足りず、飲み水にも事欠く。8人家族にマットレスは2つだけ。子供たちの多くは固い歩道の石の上にダンボールを敷いて寝る。「朝寝ていると、ハエがたかってくるから、よく眠れない」と子供の1人が訴えた。

 食事も満足にできない。調理用ガスなどもなく、慈善団体や篤志家たちからの援助で配布される豆類や肉の缶詰などで済ますしかない。パンは外から買ってくるしかない。だから食事は1日1回、多くても2回だ。

 「家族みんな缶詰の食事にうんざりしています。食欲もありません」とジアードは言う。「内部から身体が壊れていくような気がします。子供たちが病気になってしまうのではと心配です」

 実際、子供たちは食欲を失い、疲れきっている。中には下痢や腹痛を訴える子もいる。身体だけではない。悪夢にうなされ、夜に飛び起きたりする子もいる。14歳のマフムードもときどき悪夢にうなされる。「ミサイルが落ちてきて、人が死んだり負傷している夢をよく見ます」

また劣悪な生活環境と砲撃の体験のためか、多くの幼い子供たちが夜尿症に悩まされている。

 父親のジアード自身は、両眼の視力が衰え、右足にも障害があり、働けない。これまでも15歳の長男と14歳の次男が学校を中退して働き、家計を支えてきた。今回の「戦争」は、この一家にこれまでの生活苦に加え、避難生活というさらに厳しい生活を強いていた。

「戦争」観・ハマス観
ジアード・ガッタス/「休戦」直前の8月24日にインタビュー


(写真:ジアード・ガッタス)

 「ここで避難している者はだれもが家を破壊され、こういう避難生活を強いられていることに怒りを抱いています。私も平和がほしい。私たちもイスラエル人と同じ権利がほしいのです。同じように人間らしく生きていきたいんです。私の子供たちが遊ぶ場所もなく、こんな暮らしをしなければならない。いったいこの子供らは、こんな生活をしなければならないような、どんな過ちを冒したというのですか。私たちは平和がほしいんです。それは権利をもった、人間らしい生活ができる平和です。
 ハマスなどのレジスタンス(抵抗のための武装闘争)は多くのものを求めているのではありません。私たちの権利を求めているんです。人間らしい、きちんとした生活です。港を持つことは私たちの権利です。なぜ、エジプト政府にラファ検問所(ガザ地区とエジプトとの国境)の出入りをコントロールされ、いつも検問所の厳しい封鎖に苦しまなければならないのか。私たちが好きなときに外国に出れる港がどうして認められないのか。私は眼の病気で苦しんでいます。眼のチェックのために6ヵ月ごとにエジプトに行かねばならない。しかしエジプトに出ることもできない。私たちは適切な生活がしたいんです。イスラエル人が享受しているような権利を私たちも手に入れたいんです」

Q・怒りはどこへ向かうんですか?

 「もちろん怒りはイスラエルに対してです。私たちに対して攻撃・侵略を繰り返しています。もしイスラエルが我われに必要なもの、権利を与えたら、例えば検問所を自由に行き来できたり、人間として権利を与えたら、我われはイスラエルを攻撃したりはしません。普通の人間として生きていきたいんです」

Q・ハマスのロケット弾のために、かえってガザ住民が苦しんでいると見方もありますが?

 「パレスチナ人の武力は限られています。一方、イスラエルは、F16や最新の戦車など世界でも最も進んだ強力な兵器を持っています。そして今もイスラエルは、ガザを自分のたちの武器の“実験場”に使っています」

 「だれがこの『戦争』を始めたんですか。エルサレムのパレスチナ人少年が生きたまま焼き殺されました。ヘブロンの3人のユダヤ人入植者が殺されたことにはパレスチナ人がほんとうに責任があるかもわかっていません。イスラエルは、ハマスとラマラ政府(ファタハ)が統一してパレスチナ人が強力になることを恐れて、イスラエルが『戦争』を仕掛けたんです。統一の動きとハマスを破壊したかったんです」

Q・ではこのような家を破壊され、避難民の境遇になったことで、ハマスを責めないのですか?

 「もちろん、私はハマスやそのレジスタンスに反対はしません。彼らは私たちを守っています。彼らは我われに尊厳を取り戻そうとしているんです。人間らしい、きちんとした生活を私たちが取り戻すために闘っているんです。8年間のイスラエルによる封鎖によって、私たちは通常の生活ができない状態です。ガザは高い失業率に苦しんでいます。息子たちがお金を無心しても、仕事のない私はそれを与えることもできません。(封鎖の解除を求めて戦う以外)私たちには選択の余地はないんです」

Q・休戦をどう思いますか?

 「私たちの封鎖解除の要求が満たされなければ、私は個人的には休戦には反対です。我われはとても大きな犠牲を払いました。何千人というパレスチナ人が殺されました。我われの要求を獲得しないで休戦したら、我われはハマスの指導者たちやエジプトで交渉している代表たちを許さないでしょう。なぜなら、この(我われの要求を獲得するための)『戦争』で多くのパレスチナ人が苦しんでいます。例えば私の弟はひどい怪我で苦しんでいます。弟はどんな過ちを冒したというのですか。標的となった場所を通っていただけなのに、ひどい負傷を追って苦しんでいるんです」

Q・こんなひどい状況で暮らさなければならなくても、要求を獲得できない休戦は受け入れないということですか?

「問題ありません。1年でも2年でもここで暮らせます。たとえ餓死することになってもです。私たちに最も大切なことは“尊厳”です。私たちの権利を取り戻すことです。尊厳を持つということは、世界の他の地域の人のように、人間らしく生きるというこです。あなたは自分の国で、十分に尊厳を持って暮らしているはずです。私たちにだって、そうする価値はあるはずです」

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