2014年10月11日12日「ガザの人権を考える」ラジ・スラーニ氏講演とガザ映画上映会

Webコラム

ガザからの報告(2014年夏)
(24)ガザ住民の「戦争」観・ハマス観(5)
ある難民キャンプ住民の声

2014年9月9日(火)


(写真:シャジャイーヤ地区の破壊跡)

(注・この記事は停戦前の8月22日のインタビューを元にしたものです)

 ここで紹介するパレスチナ人ワエル・アファナ(50)は、ガザ市西部のビーチ難民キャンプの住民で、4人の子の父親である。イスラエル軍がガザ地区を占領し直接統治していた時代(オスロ合意以前)には、左派系パレスチナ解放闘争組織「PFLP」の熱心な支持者だった。ガザで自治政府が設立した後は、政府のオリンピック委員会のスタッフとして働いていたが、4年前、国際機関からの支援を受けてガザ市内で劇団を結成し育成する仕事に就いた。英語が堪能で、海外体験もあるインテリだ。
 2009年のガザ攻撃取材のときは私の通訳を引き受けてくれた、気心の知れたパレスチナ人である。建前ではなく本音の「戦争」観・ハマス観を聞くために、旧知のワエルにインタビューした。


(写真:ワエル・アファナと家族)

(Q・「ハマスのロケット弾攻撃がかえってイスラエルのガザ攻撃の口実を与え、住民の被害を広げている」という見方もあるが、ガザの住民はどう見ているのですか)

 「この『戦争』を始めたのは、ハマスでもなければ、他のパレスチナ人の組織でもありません。ハマスとファタハのパレスチナ統一政府を破壊するためにイスラエルが始めた『戦争』です。またヨルダン川西岸でのハマスの力をそぎ、パレスチナ人の土地をさらに没収するための『戦争』でもあります。ヘブロンでの3人のユダヤ人入植者が誘拐され殺害された直後に、イスラエルは反ハマス・キャンペーンを張り、多くのハマス関係者や支持者を拘束しました。
 イスラエルがパレスチナ人に対して敵対行為を行うのは今回だけではありません。イスラエルはガザ地区への物資の搬入を封鎖し、外への移動を禁止して、住民を窒息状態にしました。正義に反する封鎖が8年間も続きました。それがガザ住民に絶望感を生み出し、それを打開する新たな事態が起こることを望んでいました。
 イスラエルはパレスチナ人に人間らしい生活を与えようとはせず、私たちを窒息状態に置こうとしています。私たちがねずみのように生きることを望んでいます。我われが求めているのは、人間らしい、きんとした生活をしたいという普通の要求、人間として当然の要求です。他の国の国民のように自由に移動がしたい。自由に物資が搬入できるようになりたい。他の人のように港から自由に外と往来をしたい。私たちは平和に暮らしたいんです。外からの援助がなくても、自分たちがガザの中で働いて、ちゃんと生活できるようにしてほしいんです。私たちは自分たちでやっていけます。外からの援助など望んでいるわけではないのです。しかしイスラエルのやっていることは、私たちパレスチナ人を“乞食”にすることです」

 「今回の『戦争』でイスラエルの蛮行によって多くの住民が学校などに避難しなければならない状態になっています。路上生活し、外から支援を得なければなりません。しかし避難民たちはただ食べ物やマットレスなどを求めているのではありません。“尊厳”を求めているのです。支援に頼って生きるのではなく、自分たちの家を再建し、その家で人間らしく、きちんとした生活をしたい。畑を耕し、海で漁をして自活し、普通に暮らせるようになりたんです」

(Q・効果もほとんどないロケット弾攻撃をどうして民衆は支持するのですか)

 「ロケット弾攻撃のために私はハマスを非難はできません。私がハマスを支持するからではありません。実際、私はハマスを支持してはいません。しかしこの『戦争』はイスラエルによって計画され、イスラエルによって始められた『戦争』です。今、ほとんどのガザ住民はレジスタンス(武装闘争による抵抗運動)に賛同しています。たとえハマスのロケット弾が実際イスラエルに被害を与えることができなくても、ガザ住民はハマスや他の武装闘争組織の抵抗運動を支持しています。もしパレスチナ人自身が自分たちを守らなければ、イスラエルはずっと私たちに対する攻撃を続けるでしょう。そのロケット弾はイスラエル側に大きなダメージを与えることはできません。我われはわずかな武力しかもたず、イスラエルに対抗できないことはわかっています。イスラエルは世界で有数の強大な軍隊を持ち、パレスチナ側に甚大は被害を及ぼしました。
 しかしあなたは犠牲者であるパレスチナ人に何を期待するのですか。ただ降参し、自己防衛もせずに、ずっと敵に白旗を上げ続けることを期待するのですか。メディアの影響で、世界は我われパレスチナ人の側には立ちません。イスラエルは大きなメディアを取り込んで味方につけ、パレスチナ人が抵抗して闘うことを非難します。しかしそれは公正ではありません。パレスチナ人は犠牲者なのです。それを責めるのは公正ではありません。イスラエルの一般市民の犠牲者は3人です。一方、パレスチナでは2100人が殺され、10,000人以上が負傷し、2万から2万5千の家が完全に破壊されました」

 「人々はこのレジスタンスが最終的には何かを達成すると期待しています。私自身、この『戦争』後には、前の状態には戻らないと思っています。状況は以前よりもよくなるはずです。何かがパレスチナ人に与えられるはずです。パレスチナ人は少なくとも港を持つことを熱望しています。国連や多国籍軍の管理下にあってもです」

(Q・ハマスにどういう感情をもっているのですか)

 「2006年の選挙でハマスが選挙で勝利したのはファタハの腐敗のためです。ハマスがよかったからではなく、ファタハの腐敗への反発から、ハマスへ票が動いたのです。
 私はハマスのガザの支配のやり方に賛成できません。多くの腐敗もありました。ハマスは自分たちの支持者だけを優遇し、彼らにだけに政府の地位や仕事を与えました。ファタハも同じようなことをやったために失敗しました。だから住民は、ハマスにファタハと違って、神の御心に従って政治をやり、支持者とそうでない人々を平等に扱ってくれ、公正な政治をやってくれると期待しました。しかし現実はそうではありませんでした」

(Q・2011年のガザ取材で、私はハマスに対する住民の恐怖心を耳にしましたが、今も変わりませんか)

 「もし公にまたはメディアなどでハマスを非難・攻撃したら、ひどい扱いを受けます。ハマスに反対する表現の自由はありません。たとえハマスに直接抗議するデモでなくても、たとえラマラ政府(ファタハ政権)に反対するデモでも許可されません。ハマスはどんなデモでも許さないのです」

(Q・ハマスに対する住民の見方はこの戦争で変わったのですか)

 「住民の支持は、レジスタンスに対してであって、ハマスという組織に対する支持ではありません。ハマスとレジスタンスとは違うのです。レジスタンスは敵と戦うことだし、ガザ住民はだれもそれに反対はしません。レジスタンスを実行している組織はハマスだけではなく、ハマス以外の組織も闘っています。私たちはそのレジスタンフを支持しています。毎日のようにパレスチナ人を攻撃し殺害するイスラエルに武器で抵抗している人たちを支持しているのです。今回の戦争で最も被害を受けたシャジャイーヤ地区やラファなどの住民たちも同じことを言うはずです。彼らはレジスタンスのグループを支持します。ハマスとかイスラム聖戦とか組織そのものを支持しているわけではないのです。レジスタンス・グループは互いに共闘しています。共に闘い、共に死んでいます。住民にとってどの組織が闘っているかは重要ではありません。ガザ住民のすべてがレジスタンスを支持し敬意を抱いています」

(Q・もしこの「戦争」で何の成果もなければ、ハマスの人気は急落すると思いますか)

 「そうです。もしこの『戦争』で何も達成できなかったら、またイスラエルが私たちに必要なものを何一つ与えないのなら、かつてハマスを支持していた30~40%の支持者たちももう支持しないし、次の選挙でハマスは勝利できないでしょう。だからと言って、ファタハが大多数を獲得するということにはなりません。『腐敗したファタハ』のイメージは、住民の記憶にまだ鮮明に残っているからです。大方の住民はファタハもハマスも好きではありません。両方とも腐敗しているからです」

(Q・イスラエルはパレスチナ側に何かを与え、停戦を受け入れるだろうか)

 「もしこの『戦争』が続いたら、イスラエルは妥協し、パレスチナ人に何かを与えるでしょう。交渉によっては、パレスチナ人は何も得られません。なぜなら、“仲介者”が公正ではないからです。現在のエジプト政権は、国内のムスリム同砲団と敵対しているから、それとつながるハマスも敵視しています。だからハマスがこの『戦争』で勝利することを望んではいません。もしハマスがこの『戦争』で勝利すれば、エジプトでの同胞団が強大化する、エジプト政権はそれを恐れています。パレスチナ人にはもっと公正な仲介者が必要です。例えばフランスや英国、ロシアなどです。アメリカはだめです。アメリカとイスラエルは戦略的な同盟関係にあり、アメリカはイスラエルに反対することはまったくやりませんから」

(Q・この戦争が続けば、どうしてイスラエルは妥協するというのですか)

 「『戦争』が長引けば、イスラエルはさらに多くのものを失うからです。まず国際的な支援とりわけ経済的な支援を失います。また国際社会におけるイスラエルのイメージも損ねてしまいます。この『戦争』が長引けば、さらに世界はパレスチナ問題を知るようになります。その一方でパレスチナ人に対する国際社会の同情と支持は日々高まっていきます。子供たちが瓦礫の下敷きになって死んでいくようなシーンがさらに世界に広がり、パレスチナ人への同情がさらに高まっていくことでしょう。とりわけ西欧世界では、各地での抗議デモが大きくなっていき、国民が政府を突き上げていきます。フランスや英国、アメリカにおいてもです。これらが、イスラエルがパレスチナ人になんらかの妥協をせざるをえない圧力となっています。だから『戦争』が続けば、イスラエルはいっそう支持を失っていくことになります」

(Q・ハマスはレバノンのヒズボラやイランとの関係悪化で以前のような支援を得られないために、弱体化しているという指摘もありますが)

 「それは事実で、ヒズボラやイランの支援を得られないために、ハマスは以前より弱体化しています。外からの支援を得られないことでハマスは今後も苦しむことになるでしょう。ロケット弾の数量も減り、外からの支援の資金も少なくなるでしょうから。
 だからこそハマスは、何の成果もなくこの『戦争』を終わるわけにはいかないのです。自分たちの地位を高め、強化するためにどんなに小さくてもその成果が必要になります。それは住民にとっても利益になることだから、レジスタンス・グループを支持します。レジスタンスによってパレスチナ人が何かを獲得できると期待するからです」

(Q・「戦争」で、住民は人命や家など多くのものを失いました。もう疲れ果て、「休戦」「停戦」を望んでいるのではないでしょうか)

 「住民は何の成果もない『休戦』を喜んではいません。24時間の『休戦』はいい。しかしそれが72時間延長され、さらに5日間延期されたとき、住民はそれを望んではいませんでした。住民はこの『戦争』から何かを成果を見たいのです。『休戦』が欲しいのではありません。2000人を超える死者、1万人を超える負傷者、3万戸の家の破壊でも、人びとはこの『戦争』を続けなければと思っているのです。なぜなら、この戦争の成果をまだ何一つ見ることができないでいるからです。住民はこれ以上失うものはないのです。被害を受けていない私でさえ、同じように考えています。成果を得られるまでこの『戦争』を続けることに私は賛成です。この『戦争』が何の成果もなく終わるとしたら、住民はまったく絶望するでしょう」

(Q・この戦争の傷跡から回復するまでにどのくらい時間がかかると思いますか)

 「それはいつ、なにを獲得してこの『戦争』が終わるかによります。この『戦争』の結果、封鎖が解除され、港が手に入るのなら、建設資材は簡単に入ってきて、ガザの再建は難しいことではないでしょう。しかし最も重大な鍵は、この『戦争』で何を獲得するかです」


(写真:爆弾の破片で腹部を裂かれた生後2ヵ月の女の子)

2014年10月11日12日「ガザの人権を考える」ラジ・スラーニ氏講演とガザ映画上映会

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