Webコラム

ルポ「絶望の街─ガザ攻撃から15ヵ月後─」(4)

(2016年2月22日公開)


写真:15ヵ月後も破壊されたままの「パイオニア」社内部に立つ幹部ワリード・ハマーダ(2015年11月・土井撮影)

被害を受けた企業は今

 ガザ地区北部ベイトハヌーン地区の工業地帯にあるガザ最大の商社「パイオニア」のビル4、5階が昨年のガザ攻撃で戦車の砲撃を受け、炎上した。輸入し保管していた電化製品が全て消失し、缶詰生産ラインの一部も破壊された。破壊跡を案内した幹部ワリード・ハマーダは、「イスラエルの攻撃の目的の1つは、ガザの経済を破壊することでした。そうでなければ、どうしてここを攻撃するんですか」と訴えた。
 15ヵ月後も、建物の砲撃跡は修復されず、炎上した電化製品の山も以前のままだった。ただ缶詰の生産ラインは再稼動していた。そうしなければ、他の会社に市場を奪われてしまうからだ。
 「あの戦争はただ破壊だけをもたらしました。これでガザは10年ほど後戻りしてしまいました」。と幹部のワリードが言った。「パイオニア」は2008〜9年のガザ攻撃のときも、今回よりはるかに甚大な被害を受けたために、現在のベイトハヌーン工業地帯に移転した。しかしそこでも攻撃の標的になってしまったのだ。

 「誰に怒りを覚えますか?」とワリードに聞くと、「イスラエルとハマスの両方」という答えが返ってきた。
 「ここは工業地帯です。イスラエルもハマスもここを戦闘の場にすべきではなかったのです。双方にとって危険な地域でもなく、住民のために物資を提供していたんです」
 彼によれば、ガザ経済の80%が破壊され、多くの企業が昨年のガザ攻撃の後、閉鎖してしまい、銀行に莫大な借金を抱えているという。
 「パイオニア」は先の戦争で甚大な被害を受けたが、まったく援助の手を差し伸べてくれなかったとワリードが語った。
 「ガザ北西部にあった自宅は完全に破壊されました。それで家をガザ市内に再建しようとしたら、ガザ政府は建設許可を得るために金を要求してきたんです。北西部からガザ市内の家を移転するからだというのです」
 ハマス政府に対するワリードの失望はそれだけではない。
 「ガザ政府はとても強力な政府で、望むことは何でもできます。彼らは、私たちがラマラの自治政府に税金を払っていることを知っていながら、同じ税金を私たち住民に課します」
 つまり、イスラエルとの境界から物資を搬入するためには税金をラマラの自治政府とハマス政府の両方に払わなければならないというのだ。
 イスラエルと共に戦争起こした責任を負い、しかも被害の救済もせず、むしろ住民から負担を強いようとするハマスに対してなぜ住民は沈黙を続けるのか。ワリードはこう説明する。
 「民衆は現状に怒り 失望していますが、ハマスに立ち向かうほど強くはありません。
 ハマスの力がとても強力なので、反旗を翻すことはできません。だから民衆は怒りを向ける先がないのです」
 一方、ワリードはイスラエルの攻撃は、ハマスをガザから排除することにはつながらないと指摘する。
 「前回の戦争であの強力な軍事力でも少数のハマス・メンバーを殺傷できただけで、ハマス最高幹部たちを殺害できなかったのです。一方でイスラエルの攻撃はハマスにではなく、イスラエルに対する憎しみを増幅していきます。イスラエルがガザ住民に圧力を加えれば加えるほど、住民はハマスをいっそう支持するのです」
 この絶望的なガザの状況に、ワリードもまた、ガザ脱出し海外で事業を続けることを考えているという。
 「2年ごとに戦争が起こり、もう安全な場所はありません。トルコあたりで事業を展開することを計画しています。ヨルダン川西岸も可能性はありますが、トルコがもっといいです。西岸の市場はそれほど大きくないですから」

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