Webコラム

日々の雑感 397:
トランプと安倍晋三

2021年1月21日


(写真・テレビニュースより)

「トランプ・ファースト」の醜悪さ

 トランプがホワイトハウスを去り、退任演説のするCNNの実況中継を見た。
一言で言えば、“醜悪”そのもの。国の指導者は、まず「自国と国民にとって何がいちばん望ましいことか」を最優先に考え、行動するべきであるはずなのに、トランプは「アメリカ・ファースト」とは公言しながらも、実態は「トランプ・ファースト」。最後まで、アメリカの将来よりも、自己の権益、名誉欲、自己顕示欲を満たすことに執着した人物だった。

 不可解でならないのは、「アメリカ国民はどうしてこんな人物を大統領に選んでしまったのか」という疑問だ。「民主主義のお手本の国」と言われてきたこの国の国民の民度・知性の実態はこの程度のものだったのかと失望した。コロナ対策をはじめとする失政の数々、「トランプ・ファースト」の醜悪さを4年間目の当りにしてきたはずの国民が、それでも大統領選挙で7千万票を投じる国民の心理の不可解さ。トランプに煽られた民衆が「民主主義のシンボル」である議会を襲撃するという歴史的な醜態。トランプは、「アメリカの民主主義」「民主主義の旗手・アメリカ」の実像、実態を世界にさらけ出してみせてくれた「功績」で、私たちの記憶と世界の歴史に名を残すことになるのかも知れない。

アメリカのジャーナリズムの“底力”

 一方で、際立ったのはアメリカのジャーナリズムの“健全さ”だった。
 新型コロナウィルスによって40万人の死者を出したその主要な要因は、自分の無策、愚策にあったことは棚に上げ、「ワクチンをこれほど早く開発たことは自分の功績の一つ」と自慢するトランプ。これに対してCNNのコメンテーターはすかさず、「ワクチンを開発したのはあなたではなく、科学者であり、製薬会社だ」と反論する。「アメリカ史上最悪の大統領」「トランプ氏がホワイトハウスを去ることで、どれだけのアメリカ国民がほっと胸を撫でおろしていることか」など、去る大統領へのあらん限りの批判・酷評、罵倒を世界に向けた実況中継の中で自分の言葉で堂々と語るのだ。あっぱれ!アメリカのジャーナリズムの健全さ、凄さ、底力を目の当たりにし、私は唸った。

 その時、私の頭に浮かんだのは我が国の実態だ。安倍晋三・前首相はこのトランプに言われるままに武器を「爆買い」し、外交政策も忠実に追随してトランプの歓心を買い、トランプとの「大の仲良し」ぶりを自慢げに国内外に顕示してきた。一方で国内では「安保法制」「アベノミクス」「モリ・カケ・サクラ」問題、コロナウイルス対策の愚策など、失政と虚言を繰り返してきた。その安倍氏が7年半の長期政権を降りるとき、日本ジャーナリズムは、トランプ退任の時のアメリカのジャーナリズムのような健全な反応を示せたのだろうか。NHKのあの女性政治記者に象徴されるような、安倍首相の「功績」を称えこそすれ、その失政を厳しく追及しようともしない“御用ジャーナリスト・コメンテーター”たちはいても、あのCNNのジャーナリストやコメンテーターのような自分の頭で考えた辛辣な意見をニュース番組の中で、自分の言葉で堂々と述べる組織内ジャーナリストたち(組織に縛られないフリーランスのジャーナリストやコメンテーターは別)を私は知らない。番組としても、TBS「報道特集」ような例外を除いて、観たことがない(他にも私が見逃している番組はあったかもしれないが)。これがアメリカのジャーナリズムとの“成熟度”の差なのだろう。

問われる日本人の民度と知性

 トランプ退任演説を聞きながら、我が国の前首相との共通点をまざまざと見た思いがした。それは両者とも、政治家に不可欠な「自国民にとって何がいちばん望ましいかを最優先に考える」という意識が欠落し、自分の権益、名誉欲、自己顕示欲を最優先する「自分ファースト」であり、それを満たすために平気で嘘をつき、それに何の後ろめたさも感じない“厚顔無恥”であること。あの二人が「大の仲良し」だったこともうなずける。

 我が国にとって不幸なことは、それが安倍晋三に限ったことではないことだ。菅首相、二階自民幹事長、麻生副総理などに代表されるような、安倍晋三と同じ臭気を放つ「政治家」たちがうようよいる。

 アメリカでは「史上最悪の大統領」に代わって、それまでの悪政を一掃し振り子を健全な方向に戻すと宣言し、それを実行する可能性を秘めたバイデン新大統領が登場した。
 一方、我が国を振り返ると、安倍晋三の次が、それまで安倍を支えてきた“子分”の菅義偉。絶望的な気分になる。やはりバイデンを登場させるアメリカの民意・知性は凄い。アメリカの“民主主義”はまだ健在なのだ。
 やはり問われているのは、日本国民と民度と知性なのだろう。アメリカの大統領交代劇という“写し鏡”で、私たちは日本の“民主主義の未成熟さ”を嫌というほど見せつけられている気がする。

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