Webコラム

日々の雑感 20
パレスチナ・2007年 春 7

2007年3月30日(金)
やりたい放題のヘブロンのユダヤ人入植者たち

 占領地での蛮行を告白し、イスラエル社会に伝える活動を続けている元兵士たちのグループ「Breaking the Silence(沈黙を破る)」。彼らが定期的に主催するヘブロン・ツアーに参加した。参加者は20人ほど、大半がイスラエル人だが、中には私のような外国人のジャーナリストや外国人の平和活動家なども混じっていた。ツアーガイドを務めるのは、2002年春のナブルス・ジェニンへの大侵攻にも参加した元将校、ミハエル・メナキン。父親がアメリカ人で母国語同然の流暢な英語で解説する。
 数日前にヘブロンのユダヤ人入植者たちが、あるパレスチナ人の家を占拠する事件が起った。休日の今日(官庁も最近は土曜日だけでなく金曜日も休日となった)、イスラエル人の平和活動家たちがその抗議デモにヘブロンへ入ろうとしたため、入植者たちとの衝突を警戒した警察は、イスラエル人や外国人がヘブロン市内へ入ることを厳しく制限した。私たちのバスも、市内への入り口で警察に制止され、一旦はツアーが中止になりかけたが、中に私たちジャーナリストが数人いることを訴えて、やっと市内へ入ることが許可された。しかし前後に自動小銃で武装した10人ほどの警官にガードされる物々しい警備の中での市内見学となった。パレスチナ人の攻撃からの「ガード」ではない。ユダヤ人入植者たちの襲撃から「ガード」するためである。
 私たちが案内されたのは、住民の大半はパレスチナ人だが、ユダヤ人入植地が点在するためにイスラエル側が管轄する「H2」地区。商店街も完全に扉が閉められたままで、ゴーストタウンのように閑散としている。今日がパレスチナ人の休日、金曜日だからではなく、入植者たちの襲撃を恐れてパレスチナ人の商店主たちが閉店してしまったためである。住民が暮らす2階のベランダや窓はすべて鉄製の網で覆われている。入植者たちが投石するために、パレスチナ側のNGOが支援して取り付けられた。ヘブロン見学にやってきた私たちのグループを見ると、ヘブロンでの監視を続けているヨーロッパの監視団の男性が、私たちのグループに向かって説明し出した。彼によれば、連日、学校へ向かうパレスチナ人の子どもたちに向かってユダヤ人入植者の子どもたちが投石を繰りかえす。やってきた兵士が捕らえたのは、投石する入植者の子どもたちではなく、その投石を止めようとしたパレスチナ人の大人たちだというのだ。パレスチナ人の子どもたちは、もし入植者たちに投石したら、その報復の恐ろしさを身に沁みて知っているから、あえて攻撃したりはしない。
 あるパレスチナ人の家の庭先には冷蔵庫の廃棄品やゴミが散乱している。上の丘の上を占拠して入植地を作ったユダヤ人たちが嫌がらせのために、投下してくるのだという。しかし入植者たちがそのために処罰されることはほとんどない。「同胞」の兵士は自分たちを逮捕したり罰したりしないことを熟知している入植者たちはやりたい放題だ。同行した知人が言った。「入植者たちはパレスチナ人たちを同じ人間とはみなしていない。人間の形をした動物、『似非人間』としか見ていないんです」。
 先月、ユダヤ人入植者がパレスチナ人の家を襲う映像がイスラエルのテレビで放映され、国内で大きな反響を呼んだ。それはイスラエルの人権団体からビデオカメラを渡されたパレスチナ人の家族が撮影した映像だった。そういう現実をまったく知らされてこなかった国民にとって、「あるはずもない現実」を目の前に突き出されて衝撃を受けたのだろう。「Breaking the Silence」の活動の目的も「イスラエル国民に、この占領地の現状を知らないと言わせないため自ら体験した占領の実態を伝えていく」ことにある。
 しかし、彼らの存在もその活動も大半のイスラエル国民はほとんど知らない。だから彼らの活動が、即イスラエル世論を動かすというほど現実は甘くない。へたをすると、「占領地での兵役を拒否するイスラエル人」と同様、「イスラエルの“良心”」の存在を世界に向けて宣伝する“駒”に利用されかねない。それでも、彼らの存在とその主張を伝えることはとても重要だ。部外者たちからではなく、イスラエル社会の内部から、自分たちの社会と政府の政策、軍の実態の歪さを告白していくその声と内容は、当事者の実体験であるが故に、否定し難い“事実”として何にも勝る説得力があるからだ。その威力は外の専門家やジャーナリストの解説や報告などの比ではない。だからこそ、彼らの声と活動をきちんと伝えることは、パレスチナ・イスラエル問題の実態と本質に迫るために重要な意味を持つのである。

 多くの日本人には、“ユダヤ人”のイメージとして、「アンネ・フランク」に象徴される “ホロコーストの犠牲者”像がこびりついている。だからそれと対極の“ユダヤ人”の実態をなかなか受け入れることができない。そんな人は、一度、このヘブロンを訪ねてみるといい。ここでユダヤ人入植者たちが日常的にパレスチナ人に対して行っている暴行の現場を自分の目で見てみればいい。もちろん入植者たちがイスラエル人全体を代表しているわけではない。「ほんの一部の過激なイスラエル人に過ぎない」という声もあろう。しかし彼らは紛れもなく、イスラエルの一部である。しかも彼らの存在と言動がパレスチナ問題解決の最大の障害の1つとなっている。ある意味では、ヘブロンの現状はイスラエルの“占領”の現実を凝縮する縮図と言ってもいいかもしれない。

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