Webコラム

パレスチナはどうなるのか

(この文章は、新聞のコラムのために書いたものです。2007年7月11日公開)

 「封鎖で主要食料も医療品もまもなく底をついてしまう。150万人の住民は危機的な状況だ」。ガザ地区のNGOから悲鳴のような報告書が届いた。先月(2006年6月)、ハマスがガザ地区を制圧して以来、イスラエルによる封鎖はいっそう強化されている。一方、アッバス議長を支援するため、イスラエルは関税の送金を、また欧米諸国も経済支援の再開を宣言した。その恩恵はガザ住民に及ぶ可能性は薄い。ハマス支配下のガザ住民は封鎖強化と支援凍結で生活がさらに悪化する一方、ファタハ支配下のヨルダン川西岸では住民の困窮生活は改善されるというメッセージを送ることで、民心の“ハマス離れ”を促そうとする狙いだ。しかしイスラエルと国際社会は、これまでのハマス勢力の伸張の経緯からほとんど“学習”していない。ハマスらの「武力抵抗」への対抗措置とした封鎖政策は功を奏さず、逆に住民の反イスラエル感情を強め、困窮した住民の生活を福祉活動で支援したハマスへの支持を高めるという皮肉な結果を生んだ。またハマス政権誕生後の国際社会の経済制裁も、「穏健派」ファタハの勢力挽回に繋がらず、逆にハマスに駆逐される結果を生んだ。それは、民衆の「ファタハへの幻滅・ハマス支持」という根強い感情をあまりに軽視したからだ。5年前、ジェニン侵攻で家を全壊された男性は「イスラエルを承認し和平合意を結んだファタハは何をしてくれたのだ」と怒りを露にした。「誰が海外援助を独占したんだ。なぜハマスに投票したかって? 彼らは『神は唯一であり、ムハンマドは預言者である』と言う人々であり、また清廉だ。何の見返りもない『イスラエル承認』を拒否する勇気ある政権だ」
 今後、パレスチナはハマスのガザ地区とファタハのヨルダン川西岸に二分されるといわれる。しかし西岸でもハマス支持は根強い。昨年の評議会選挙では都市部でハマスはファタハの3倍近い議席を獲得している。西岸住民は、移動の制限や封鎖、土地や水資源の収奪、軍の攻撃などで日常的に“占領”を体験する。それに「武力闘争」で抵抗するハマス勢力をアッバス議長が「テロリスト」呼ばわりし、「非合法組織」として弾圧に乗り出せば、「イスラエルの走狗」「“パレスチナ大義”の裏切り者」として民心はいっそうファタハから離れていく。ハマス弾圧にイスラエルの支援を受ける事態になれば、すでに死に体の「ファタハのパレスチナ解放闘争」は完全に消滅する。しかし“パレスチナ解放闘争”自体が死滅するわけではない。占領が続く限り、民衆の怒りと抵抗心は日々更新され、そのうねりはハマスなど急進的なイスラム運動体の“パレスチナ解放闘争”に吸収・収斂されていく。たとえ武力でハマスという組織は壊滅できでも、民衆の怒りと抵抗心は雑草のように新たな“解放闘争”を生み出すだろう。弾圧でさらに急進化していく“解放闘争”は国際社会が最も恐れる事態、つまり世界各地の反米・反イスラエル武装組織との“イスラム”を媒体とした連携強化の事態を生み出すだろう。それはイスラエルが隣り合わせに 「火薬庫」を抱え込むことに終らない。確実に国際社会全体の「火薬庫」ともなる。今こそ世界は、「ハマス潰し」という対症療法にではなく、問題の“根”の根絶に取り組むべきだ。

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