Webコラム

日々の雑感 85:
続・学生ボランティア

2008年5月5日(月)

 私のボランティアの中に、東京外国語大学アラビア語の学生たちがいる。3年生のSさんを中心に、同級生や下級生、数人のグループである。彼らの関心は“パレスチナ問題”。リーダーのSさんは、9・11を契機に“パレスチナ”に関心を抱き、アラビア語を学ぶ決心をした。だが、大学ではパレスチナ問題に触れる機会は多くないという彼にとって、私の元にある膨大なパレスチナ問題に関する資料や映像は“宝の宝庫”に見えるのかもしれない。そのSさんは今、重要な役割を果している。私のHPにリンクするイスラエル英字紙『ハアレツ』電子版の要約してくれている。私自身、他の仕事に追われてなかなか目を通せないでいる『ハアレツ』で、最近のパレスチナ・イスラエル情勢を垣間見ることができるので、たいへん貴重な情報源である。彼が数日おきにメールで送ってくる要約に目を通して校正する作業(とは言ってもほとんど手直しする必要もないほど、しっかりした翻訳であるが)を通して、日本の新聞ではあまり伝えられない現地の情報を知る機会を得ている。それは私やそれをHPで読む読者にとって、とても有益であるばかりではないと私は思っている。パレスチナ問題に強い関心を持つSさんや、彼を支える周囲の数人の学生も『ハアレツ』の翻訳と要約の作業を通して、重要な情報を得られると思うからだ。

 この4月から新たなボランティア・グループができつつある。これは4月中旬、早稲田大学での私の講義を聞いた学生たちのグループである。この2年半の経験から私は ボランティアに漠然した目的で、あまり統一性と計画性のない作業を随時手伝ってもらうことは、学生たちにとってあまりにプラスにならないのではと反省した。そこで、今度は、1つのプロジェクトを立ち上げ、そのテーマに強い関心を持つ学生たちを集めて私と共同作業をしていこうと考えた。
 早稲田大学の学生たちに提案したのは、「教育を記録する」プロジェクト。この1年、記録を続けてきた「君が代・不起立」の根津公子さんの映像を“縦糸”にして、日本の教育現場の現状、政府の教育方針の変遷、日教組など組合の動きなどを“横糸”しながら、日本の教育の“右傾化・国家主義化”を描き出すドキュメンタリー映像を作ろうという計画である。そのための資料集めや読み込み、これまでの映像資料の整理、今後の取材・撮影などを学生ボランティアたちと共同作業をしていく計画である。
 私の呼びかけに応じて、数人の学生たちが集まった。全員が1年生で、18歳から19歳。この3月まで高校生だった人たちが大半である。東京と横浜に暮す彼らに、横浜駅前の公共施設の一室に集まってもらい、根津さんの映像の見てもらった後、このプロジェクトの説明会をやった。翌日は、再び6ヵ月の停職処分を受け、かつての勤務先である南大沢学園の門前に通う根津さんの“闘い”を見てもらうために、学生たちを連れて現場へ案内した。学生たちに実際に根津さんの“闘い”を肌で体験してもらうことで、これから参加するプロジェクトの意味と動機をしっかり掴んでもらうためだった。
 根津さんの“闘う”姿を目の当たりにし、その思いを直接聞くことで、まだ“白紙”状態の若い学生たちの中は、このプロジェクトに参加する意味と動機を掴んでくれたにちがいない。
 この「教育を記録する」プロジェクトに参加する若い学生たちを引っ張っていくリーダーになってくれるのは、すでに1年半、私の元でボランティア活動を続けている横浜国大生4年生のKさんである。“新米記者”Kさんの1年後輩で、海外協力隊としてニカラグアへと羽ばたくTさんと共に私のボランティアたちをリードしてきた。BBCのニュースも翻訳できるほどの英語力をもち、将来は国際社会を舞台に仕事をしたいという夢をもつ優秀な青年である。前回、紹介したボランティアと同様、さまざまなテーマに関心を抱き、旺盛な吸収意欲をもつ。しかも、ものの本質を見抜く判断力と洞察力がある。それに何よりも、純真で真っ直ぐな性格がいい。まだ幼い1年生学生のリーダーを安心して任せられる青年である。

 このように若い学生ボランティアの情熱と瑞々しい感性に触れ刺激を受けることで、私は自分のジャーナリスト活動を支えるエネルギーをもらっている気がする。

関連サイト:Haaretz Headline(ハアレツ見出し翻訳)

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