Webコラム

日々の雑感 283:
【パレスチナ現地報告】(8)
「C地区」で続くイスラエルによる“民族浄化”

2012年12月1日(日)


写真:トゥウェイニ村・「C地区」人口280人ほどの農業の村

 このトゥウェイニ村で、住民の権利を守る活動を続けるスレイマン・エルアドラ(37歳)からこの地区の現状を聞いた。

 この村の名前「トゥウェイニ」は「トゥワンナ」というトルコ人の名前に由来します。人口280人ほどのこの村の住民は大半が農業で生計を立てています。自分の土地に小麦や大麦、豆、オリーブなど地元の作物を生産し、羊など家畜を飼っています。しかし近くのユダヤ人入植者の攻撃や破壊行為のために農民たちは安心して農業に従事することはできません。
 私たちは、ずっとイスラエルの占領で苦しんできました。その占領には2つの面があります。1つは占領そのもので、もう1つはユダヤ人入植者です。3つの入植地、マオン、アビゲイル、ハバットマオンが近くにあるんです。
 私たちの地域はいわゆる「C地区」で、パレスチナ自治政府(PA)の管轄はまったく及ばない地域です。そこにPAが存在することさえ許されていません。PAの首相サラーム・ファイヤッドや他の要人たちがここへ来ようと思っても、イスラエル側との調整(許可)なしには来れないんです。例えばトゥウェイニ村には来れません。それがオスロ合意で決められたことなのです。「C地区」では、占領者側は好きなようにやることが許されているんです。家を破壊し、住民を追い出す、何でもできるんです。そしてPAはアラブ諸国や外国との会議でも、そのことについて何一つ言及することが許されていないんです。
 この村には電気も舗装道路も、診療所も、学校もありませんでしたが、神のお陰で、やっとそれらを手に入れることができました。しかしそれは簡単なことでありませんでした。イスラエル側から何度も攻撃され、逮捕され、多額の罰金を支払わされました。村人で、その被害に遭わなかった者はだれもいません。入植者かイスラエル兵や警察に攻撃されなかった者はいません。
 一番の問題は家屋破壊です。私たちは1989年にモスクを建てました。しかしイスラエルが破壊してしまいました。それで1995年に壊されたモスクを再建しました。するとまた破壊されたんです。3度目に建てなおし、それはまだ破壊されていません。発電機も、イスラエル側から何度も撤廃すると警告を受けました。アスファルトの道路もそうです。破壊すると警告を受け続けています。この村の建物で、建設許可がある家はまったくありません。診療所だってそうです。破壊の警告を受けています。学校もそうです。近くのユダヤ人入植者たちは、毎日、通学する子どもを襲撃し、果樹、家畜を破壊しています。
 入植者たちの攻撃は、毎日、昼も夜も起こっています。外国人のNGOがここに定住するようになってから、入植者たちの攻撃は、昼間から夜に変わりました。樹木を破壊し、土地に毒物を撒き、近隣の村から学校へ行き来する子どもたちを襲います。入植者たちは顔にマスクをして、木陰に隠れて子どもたちを待ちかまえています。そして投石するんです。やがて警察やイスラエル兵がやってきて、その場所にかけつけてきた村の大人たちを逮捕します。逮捕されるのは入植者たちではなく、私たちなんです。暴行する入植者たちをイスラエル政府と軍が支援しています。

 トゥウェイニ村にある学校は2000年以後に建てられた新しい建物です。当初この地域には学校はなく、子どもたちはヤッタ町の学校へ通わなければなりませんでした。それでさまざまな組織がイスラエル側に圧力をかけ、やっと学校をこの村に造ることができました。しかしこの学校もイスラエル側から「不許可建造物」として破壊される脅威にさらされています。この学校はトゥウェイニ村だけではなく、周辺の村々にとっても唯一の学校なんです。しかし近隣の村から通う生徒たちは入植者たちの襲撃の脅威にさらされています。

 トゥウェイニ村の西側、ケルベット、エルジャワイエ、ケルベットエルラケズと呼ばれる村があります。 そこでは、井戸が破壊され、洞窟で暮らしていたシェーフ・サイードが逮捕されました。8日間、拘留され、5000シェーケル(約20万円)の罰金を科せられました。イスラエルはヤッタ町につながる道路も封鎖しました。
 2000人ほどが暮らすケルベ地区のジンダ村など7つの村では、1994~95年に住民はこの土地から追放されました。そのためにイスラエル側はあらゆる手段を用いました。なぜ井戸を破壊するのかって? 住民を追い出し、入植者たちのために人のいない土地にするためです。イスラエルはさまざな大義名分を持ちだします。ときには、「ここはイスラエル国有地だ」と、ときには「ここは軍の訓練地域だ」と、また「ここは入植地の土地だ」と主張します。
 この地域にイスラエルの軍事訓練センターの建設を許可するかどうかの最高裁の判決が12月に下りますが、私たちは占領者側からいいことは何も期待していません。私たちはいつも最悪のことを予想しています。これまで何一つ占領者側からパレスチナ人にいいことを与えられたことはなく、いつも入植者や軍の利益のためだからのです。結局、その土地は訓練センターにされ、私たちは犠牲者になるのです。

 トゥウェイニ村とPAが管理するカルメル地区との境界があります。その境界を越えて、PA側がやってくることはできません。トゥウェイニ村で病人が出た場合、そのカルメル地区にあるヤッタ町の医者のところへ行くことはできます。でもヤッタ町の医者がこの村に来ることはできないんです。どんな組織もこの村で活動することはできません。ここの診療所も、1、2週間に1度だけしか開きません。その診療所を運営しているのはPAではなく、「パレスチナ医療救援組織」というNGOです。この組織は一定の条件で、限られた人員しか送れません。しかもこの診療所も破壊の警告を受けています。学校も発電施設も同様に破壊の警告を受けています。イスラエルがそのための許可を出さないからです。将来、イスラエル政府が変われば、この地域の状況も変わるかもしれませんが。
 この村にはまったく店がないため、生活必需品を買うためにヤッタ町に買い物に出ます。そのためには許可が必要です。もし臨時の検問所で、イスラエルの警察が私を見つけたら、そこで私は何時間も留め置かれます。「なぜヤッタ町から来たのか」「何をしに行ったんだ」と尋問するんです。もしヤッタ町の身分証明書だったら、村へ向かうことはできません。海外やイスラエルの組織が介入しなければ、家にも戻れないんです。こんな状況なのだから、病院などはどうなのかわかるでしょう。
 救急患者が出た場合、電話で救急車を呼び、境界のところまで来てもらいます。 私たちはその病人をトラクターで救急車が待っているところまで運び、救急車に移し替え、ヤッタ町からヘブロン市に運んでもらいます。
 これらの圧力は、私たちパレスチナ人住民をこの土地から追い出すための組織的な“民族浄化”なのです。

 ガザでもここトゥウェイニ村でも、ヘブロン、ラマラでも、私たちは同じパレスチナ人です。占領によって起こっていることはどこでも同じなんです。イスラエルは戦闘機など強大な武器を使います。この南部地区では、8つの村で住民が追い出されました。でもイスラエルや海外のメディアは、そのことを知りません。知っているとしても、たぶんほんの少しです。これはパレスチナ全体で起こっている“民族浄化”です。
 ガザへの攻撃での負傷者や犠牲者のニュースをテレビで観るのはとても辛いです。その映像を長く観ることができません。ガザでは子どもたちや一般市民が殺されている。ここでは学校へ通う子どもたちが襲われ、家や井戸が破壊される。手段は違いますが、起こっていることは同じなんです。
 ガザでは休戦が宣言されました。しかしヘブロン南部地区に暮らす私たちパレスチナ人にとっては、この状況は私たちに対してずっと続く“戦争”なんです。水源、井戸や家の破壊……。これは入植者と軍によって私たちに対して行われている毎日24時間続く“戦争”です。この戦争には休戦も終結もありません。

次の記事へ

ご意見、ご感想は以下のアドレスまでお願いします。

連絡先:doitoshikuni@mail.goo.ne.jp