Webコラム

日々の雑感 291:
「沖縄への旅」報告(3)沖縄・辺野古は今

 →「沖縄への旅」報告(1)“パレスチナ”と“オキナワ”そして“フクシマ”
 →「沖縄への旅」報告(2)初めての高江訪問


(写真:辺野古の米軍基地との境界フェンス)

2013年2月15日(金)

 高江の宿泊所「トゥータンヤー」に一泊した翌日の1月27日、私と中山氏は、1時間ほど車を走らせ、辺野古へ向かった。私が最初に辺野古を訪ねたのは2003年7月、初めて沖縄を訪問したパレスチナ人の人権活動家、ラジ・スラーニ弁護士を案内した時だったように記憶している。その後も1、2度訪ねたが、いずれも「取材」が目的ではなかった。
 今回も、取材しようと思ったわけでもなく、せっかく高江まで来たのだから、遠くない辺野古の現状は見ておこうという軽い気持ちからだった。
 支援テントで監視を続ける人たちから近況を聞いた。

【辺野古埋め立て計画の行方】

 辺野古での基地建設に必要な埋め立て申請は、政府から沖縄県に出されるが、その認可の権限は沖縄県知事にあります。環境アセスメントは、昨年12年に補正評価書が国から県に出されたことですべて終わりました。安倍首相の辺野古移転の決断を訪米のおみやげにするか、参議院選挙の結果を観てからやるのかだろうと見ていたが、今の状況では参議院選挙まで待つだろう。
 昨年4月のアセスメント評価書に対して沖縄県知事から527項目の意見が出されています。しかし政府側から補正評価書は出たが、内容を読んだ仲間たちの話や新聞報道では、国側は県知事意見にまともに答えていないと聞きました。

 県知事が埋め立ての許可を出すとき、関係地域の首長の意見を聞かなければいけないことになっています。つまり辺野古では名護市長の意見を聞かなければいけないが、名護市長も単独では意見を出せず、市議会の同意を得た意見しか出せません。今ところ、与党の稲嶺市長を支持する与党議員が多数派だから、埋め立てに賛成する意見はそもそも議会を通りません。
 稲嶺市長は「海にも陸にも作らせない」と言って当選した市長です。しかしあと一年後に市長選挙があり、その後、来年9月には市議会の選挙もあります。さらに11月に沖縄知事の選挙が控えています。県が埋め立て申請の審査に一年ぐらいかかるだろうと言っているのは、名護市長選挙の結果をにらんでいるという見方もできます。仲井眞県知事は、「県外のすでに滑走路のあるところに持っていくのが現実的だ。辺野古に作るのは非現実的だから、もう止めなさい」という言い方をしているが、一度も反対と言ったことがない。知事は「名護市が反対している」という言い方をしているから、名護市長や議会が容認派になったりすると、県知事が立場を変えていく可能性はあります。
 今は平穏な座り込みが続いている状況です。しかしこの支援テントがなくなったら、「あいつら諦めたな」ということになるから、止めるわけにはいきません。

【ネット右翼の動き】

 このテントのある場所は遊歩道で、名護市が管理者となっています。最近、いわゆる「ネット右翼」が「憩いの場所が占拠されて、住民は迷惑している。テント敷設は不法占拠だから撤去しろ。お前たちがやらなければ、俺たちがやるぞ」と、時々押しかけてくる。しかしここでのテント敷設は別に許可を得なければいけないというものではありません。
 ネット右翼の言い方は、辺野古区民の言い方です。辺野古区では基地の誘致派の人が幅を効かせているからです。
 ネット右翼の介入は今までなかった新しい動きです。最初は去年の3月だったと思います。これまでは2、3ヵ月に一度ぐらいポツンと来るぐらいだったのが、ここ半年ぐらいはだんだん頻度が上がってきています。直近だと、2週間に3回来ています。
 先週末や先々週末には、ネット右翼がここに押しかけてきて、ひと悶着あった。今のところ、彼らが私たちに暴力を振るうところまでは行っていません。ネット右翼は独りで来るときもあるし、10人ほどで押しかけて来るときもある。この前の月曜日は4人だった。その時は福岡の「在特会」(「在日特権を許さない市民の会」)のメンバーが来ました。ちょくちょく来るのは沖縄で結成されたネット右翼の「チーム沖縄」という団体だ。在特会とつながっていると思います。
 ネット右翼がここへ来るようになったのは去年からでした。彼らが来るときは公安警察が事前に「来るよ」と知らせてくれる。公安もネット情報をチェックしているので、先回りして教えてくれるのです。
 ネット右翼は、フェンスの横断幕を破ったり、強引に取り外したいするので、公安の通報を受けると、事前に横断幕を撤去して、破られるのを防ぎます。横断幕を奪った彼らから取り返したこともある。しかしこちらが事前に横断幕を全部撤去していると、彼らは、腹いせに、海岸でゴミ拾いをし、そのゴミを私たちのプレハブの荷物置き場に捨てて、嫌がらせをします。今まで2回そんなことがありました。
 ここへやって来るネット右翼の年代は、何人か中年もいるが、若い人が多いです。20代か30代の前半ぐらいでしょうか。中には子ども連れの女性もいた。1週間前の土曜日に10人ほど押しかけてきたときは親子連れもいました。
 ネット右翼にどんなに挑発されても、私たちは彼らに何も言わないし何もしないと申し合わせしています。だから何を言われても、こちらから何の反応もしません。それに相手が腹立てて、私たちに手をかけようとすると、公安の人が「止めてください」と間に入ります。私たちと彼らの間に警察がピケを張ることもある。警察にとっては、こちら側への介入の口実でもあるかもしれないが、少なくとも、私たちとネット右翼を分離します。

 去年3月17日に、在特会の桜井会長がここへやって来ました。当時ここに、偶然、朝鮮語の横断幕がかかっていました。ここを訪ねてきた韓国の済州島の子どもたちが作った横断幕でした。桜井会長はその横断幕を見たとたんに、突然、激昂し「汚らしい朝鮮語が書かれています!」と叫び出した。そのヒートアップぶりが凄かったので、こちらもびっくりしました。
 この前、福岡の在特会が来たとき、テントの一角に飾っていた韓国語のポスターに敏感に反応して、一所懸命カメラで撮っていました。よく見つけたなあと思って驚きました。必ず「汚らしい」と形容詞をつけるんです。
 そのことについて、こちらから積極的に伝えていません。桜井会長が来たとき、沖縄タイムスや琉球新報にも連絡しましたが、ベタ記事にしかなりませんでした。

【内地のジャーナリストに伝えてほしいこと】

 この辺野古から内地の動きを見ていると、“沖縄差別”を実感します。日本はアメリカの植民地状態じゃないですか。沖縄だけがそうなのではなく、日本全体がそうなりかけています。その自覚がないと、「沖縄のことは他人事」という枠からはずしてなかなか考えられないと思います。
 内地では沖縄の状況があまりにも知られていません。まずは伝えていけるチャンネルを増やしていきたい。今、沖縄で起きていることだけでも継続的に伝えられれば、それだけでもずいぶん変わってくるはずです。ここに来られる方には「沖縄の新聞を購読してね」と伝えています。沖縄の人が沖縄を認識しているのと、東京の人たちが沖縄を認識しているのとあまりに違いがあり過ぎて、話がまったくかみ合わないんです。この辺野古まで来られる方は問題意識を持ち、事前学習をしてくる人も多いけど、そうでない人にこそ沖縄のことが伝わっていかなければ、沖縄の状況は変わっていきません。

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