Webコラム

日々の雑感:ボランティアをお願いする責任

2007年2月1日(木)

 昨年12月、「土井敏邦 パレスチナ記録の会」を立ち上げた。現在、進めているパレスチナ・ドキュメンタリー映画シリーズの制作費の支援を呼びかけるのが第一の目的だが、同時に、この会をパレスチナなど中東問題に関する報告会やドキュメンタリー映像の映写会、学習会の場にできればと願っている。その中核となって動いてくれているのが、横浜国大の学生たちを中心にしたボランティアたちである。
 彼らがその第一弾として企画した「第一回 学生プロジェクト学習会?見よう!聴こう!話そう!」が、1月30日、横浜市内で催された。タイトルは『NHK教育ETV特集「戦場からの報告?レバノン・パレスチナ」出演者と語る!!』。昨年12月30日放映のその番組に出演した臼杵陽氏(日本女子大学教授)と私が、スタジオでは語らなかった、また語れなかった点も補足・解説し、学生たちや会場からの質問に答えるという内容の会だった。
 参加者は50人にも満たない小さい会だったが、臼杵氏は「強国でなければならない」というイスラエル国民の心理とその根底にある歴史的な背景などについて詳しく解説し、私も十数年前にガザ地区で撮影したハマスの社会福祉活動を伝える映像を上映し、「テロ組織」というレッテルの陰に隠れてあまり知られていないハマスのもう一つの“顔”を報告した。
 期待した以上に密度の濃い学習会になったというのが主催した学生たちの感想である。私自身、その議論は番組のスタジオ解説以上に深まったのではないかと思う。
 私が何よりもほっとしたのは、主催した学生たち自身が、「やってよかった」と言ってくれたことだ。「パレスチナ記録の会」を、ボランティアを核にした学習会の場にしていきたいというのは私の提案だったが、それに賛同し、自主的に動き出したのは学生たちだった。今回の内容と出演者を決めたのも彼らであり、その宣伝活動のためにチラシを作り、横浜国大内はもちろん、手分けして横浜市内の他大学まで出向き、広報活動をしたのも学生たち自身だった。会場の予約、プログラムの進行計画、会進行のための役割分担、会場作りなど、彼らにとってすべてが初体験だったにちがいない。しかし試行錯誤しながらも自身の力でこのプロジェクトを成功させようとがんばっている学生たちの姿を側で見ていて、いい形になってきたなあと思った。
 横浜国大の学生たちとの出会いは、一昨年秋、外部から講師を招くクラスで私が「パレスチナ情勢」について講演をしたことがきっかけだった。その中で私が話したことは、これまで国内および国際社会での出来事にあまり関心のなかった学生たちには、ちょっと刺激的、挑発的な内容だったようだ。講演の最後に、今計画しているドキュメンタリー映画制作のためにボランティアを募っていることを告げると、10人ほどの学生たちが「やりたい」と申し出てきた。そのうち1年半経った今も残っているのは3人だけだが、昨年秋、同じクラスの講演で、1年後輩の学生たち数人がさらに加わってきた。横浜国大以外のボランティア含め、現在、10人ほど若者たちが私の家に通っている。
 しかしボランティアに手伝ってもらうことは、決して楽なことばかりではない。勉強やアルバイトなど合間を縫って貴重な時間を割いて手伝ってくれる学生たちに、一方的に「やってもらう」ことばかりでは申しわけない。やはり「ここで手伝ってよかった」と彼らが思えるものをこちらが提供していかなければと思う。自分がこれまで発表した映像や著書、またぜひ彼らに観てほしい友人、知人、先輩ジャーナリストたちの優れたドキュメンタリー映像や著書に触れる機会を提供しようと努めているのもその思いからだ。また私自身の体験を語り伝えることで、彼らに何かの参考なり刺激になればと願っている。学習会もその一環である。
 そんな私の想いは、何人かの学生たちに伝わっているようだ。学習会で臼杵氏や私の話を聞いたある学生が私に言った。
 「『ハマスやヒズボラ=テロリスト集団』というマスコミで流される情報やイメージを自分が鵜呑みにしていたんだということに気付かされました。これまで大学の勉強、アルバイト、そしてクラブ活動に追われて、自分が他の世界のことに触れたり考えたりする機会も少なく、ゆっくりものをもの考える時間もほとんどなかったような気がします。そのことをボランティアやりながら、つくづく感じました。ボランティアをやってよかったです」 お世辞でも、そう言ってもらえると、ほっとする。若い人たちに何かを教え伝え、進むべき道を指し示せるほどのものをお前自身は持っているのかと問われれば、答えられなくなる。自分自身が50歳を過ぎても暗中模索している状況なのだから。ただ、彼らよりずっと長く生きてきて、彼らがまだ知らないさまざまなことを見聞きし体験をしてきた私が、それを見せ語っていくことで、若い人たちがこれまで知らず、気付かなかったことを考え始める“きっかけ”、“刺激”はわずかでも提供できるはずだ。“反面教師”としてでもだ。
 一方、私にとってそれは、彼らに「ボランティア活動を通して土井と関わって無駄ではなかった」と思ってもらえる生き方を自分がしていかなければならない責任を背負うことでもある。ボランティアをお願いすることは、やはり楽なことではない。

関連ページ:
土井敏邦 パレスチナ記録の会

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